自分の背骨が抜け落ちたとき

 タイトル通り推しが推しの推しと交際していた。

 

 リークされる前から交際しているのでは?と噂されていたけれど、本人の口から事実を聞くまでは知らないふりをしていた。長年推しの所謂リアコをしていたいい歳したオタクの私は動画内で「彼女ができたら直ぐに報告する」と度々発言していた彼の言葉をずっと信じていたので真実か嘘かもわからない噂をそっと心の奥底深くに閉まって推しの楽しそうな姿を画面越しに拝見しながら今日も頑張って生きたことを改めて実感し、今日も推しのおかげで生き延びることができたと心底ほっとすることができた。


 風呂上がり一息ついてTwitterを見ていると何やらTLが騒がしい。みんな推しの話をしている。こわかった。今にも口から心臓が飛び出しそうなのを無理やり押さえつけながら、〇〇〇(推しの名前)と検索すると 結婚 交際相手の名前 彼女 等のワードが並んでいた。目眩がしながらも震える手で検索をかけた。推しが動画内で週刊誌にすっぱ抜かれたいという夢がまさにたった今叶っていた、夢かなと思いながらも、いや実現してるじゃん!!!こわ!!!!!と何故かあの時は一旦冷静になって記事を読んでいる私がいた。正直あの日の記憶はほとんどない。それほど信じたくなかったのかもしれないし嘘だと自分自身に思い込ませたかったんだと思う。当日推しのツイートは一切なく、どうせあの人のことだから直ぐにそのことに関して本人の口から事実が伝えられるだろうと思いその日の夜はしっかり大号泣しながら眠りについた。(正直全く眠れなかったし翌日目がパンパンに腫れた)

 

もちろん翌日も何も手につかない。何をしてても脳内では今日も推しのことで埋め尽くされている。ご飯を食べていても、推し今日もご飯しっかり食べたかな?とか兎に角何かと関連付けて推しのことばかり考えていた。 昼頃 【押忍】報道について。という動画の公開通知が来た。ベッドから飛び起きた。正直言うと本人の口から事実を聞くことがとても怖かった。死ぬほど怖かった。でも、オタクなのでしっかりプレミア公開を待機していた。相変わらずサムネの推しはしっかり罰ゲームを遂行していたし、嘘をつかないところがオタクの好きな所の一つなんだよなとこれから公開される動画を前にいつになく心の中で推しの好きなところを考えていた。動画が公開され淡々と話す推しはいつもより肌ツヤが良くていつもに増してかっこよく見えた。多分あれだけ本人の口から事実を知りたかったのにいざ触れられると怖くてビジュアルばかり見て気を紛らわせようとしていたんだと思う。推しなりに動画のカメラワークの数を増やしたり真面目すぎる動画にならないように編集も工夫されていて、きっと自然と動画を視聴するとき顔が強ばっているオタクのためにも、ちょっぴり笑いを混ぜてくれたんだと思う。悔しい気持ちにもなりながら推しの口から語られる事実を一言たりとも逃したくなかった。ほんとは今すぐにでも動画を止めて逃げ出したかった。でも推しの緊張しているが幸せが溢れんばかりの表情で語られる交際宣言をしている姿から目を離すことができなかった。長年推しを推しているからわかる。ほんとうに今の推しはすごく幸せそうだ。この人になら人生の全てを賭けて預けることができる、絶対に裏切ることはしないし死ぬほど愛してくれるんだろうなと画面越しからひしひしと痛いほど伝わってきた。彼女ができたら直ぐに報告するって大見得を切って何年間も発言していたのに先にリークされ「世界一大切な女性を守るために嘘をつかない男なんていねえと思っておりますので」と発言していた推しの“世界一大切な女性”が、12年間もオタクしていた推しの推しが彼女という対象としての“世界一大切な女性”と発言しているところは死ぬほど泣いてしまった。観たくないのに何回も再生しては泣いて、泣いて泣きまくった。動画内のコメント、TL上のオタクはほとんどが祝福ムードになっていたが、私だけはどうしても祝福することができなかった。推しの幸せはオタクの最大の幸せなのに、今でもまだ純粋な気持ちで祝福することができていない。こんな自分に自己嫌悪を抱きながらも、推しの幸せそうな惚気付きのツイートやお相手、推しの友人等の推しへのお祝いリプなど見るだけで心が痛くなってすべて見れないように自衛した。7年間もずっと推しに縋って生きてきたなんにも無い人間の私は推しを応援することだけに熱量を注ぐことしかできない自堕落でダメなオタクだと自負している。私は自分とは全く正反対な推しに惹かれてずっと応援してきたから、幸せそうな姿を見ると置いてかないでよ、私にはなんも無い、あなたを応援することにしか全力を費やせない人間だから置いてかないで…って気持ちでいっぱいで辛かった。推しによって与えられたダメージの空洞はぽっかり空いて埋めることが難しくて生きた心地がしなかった。これからどうやって生きたらいいのかなと自問自答しながらも正解が見つけ出せなくて、でも私もうじうじしたままじゃ前に進めなくて、他界隈の推しとはまた違うスタンスで推していたから推しを消費しようとする自分にも嫌気がさして自己嫌悪で、もういっその事オタク辞めたいなと思っても私には誰かを推すという行為をしているときにしか生きてる実感を得られないので、どうせ口では言ってもオタク辞められないんだろうなとこの日改めて実感させられた。

 

 中学生のとき不意に開いたYouTubeであなたと出会い、この人なら自分の全てをかけて応援したい!と思いながら死にそうなぐらい辛いことがあってもきみのおかげで死なずにここまで生きてこれました。初めてバイトをして稼いだお金であなたの出演する現場に入ったときは、大好きな人が画面越しじゃなくて目の前にいて、実物がちゃんとそこにいて泣きながらオレンジのキンブレを振ったことを今でも鮮明に思い出してしまいます。人生で1番幸せな誕生日を過ごせたよ。そこから推しが出演するイベントはたくさん足を運んだし、たくさん岡崎にも行って聖地巡礼した。推しの笑顔がみたくて推しの好きなもの、趣味について調べて勉強してみたりした上でいろんな会話ができたことも忘れたくないな。偶然遭遇したときも緊張して全然喋れなかったときに毎回手を握りながらしっかり目を見て話を聞いてくれたし、色んな話を聞かせてくれて動画も撮らせてもらったりほんとうにこの人のことをずっと推すことができて私は幸せ者なんだなと出会えたことに感謝しきれないよ。沢山の現場であなたのために振ったオレンジ色のキンブレの灯りを今はまだ光らすのに時間がかかりそうだけど、いつかまたオレンジの光を照らすことができるまで心の中でそっと大切に色んな思い出と共に閉まっておきます。

 

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